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創始者 大坪 久泰

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2019.11.21

北村秀秋著「紙と鉛筆と数学」鉱脈社

 北村先生は姉妹校宮崎学園短期大学に在職されたことのある方です。宮崎県都城市出身で、宮崎県内の公立中学校、私立高校、そして短大で数学の教鞭をとられた他に、教育委員会で指導主事をされ、さらに都城市と日向市の教育長として長い間教育に携わられた方です。標記の「紙と鉛筆と数学」は「なにもねかったどん」(物がなかったなかったけれどもという意味)シリーズ3冊のうちの一冊です。物がなかったという意味は、第2次世界大戦後の物質的なものに限らず、精神的・文化的にも窮乏の時代を乗り切って育った北村先生の生い立ちを述懐されている言葉ではないでしょうか。私は北村先生より10歳くらい年長ですので、同じような体験をしていますから時代背景がよくわかります。

 この著書を紹介する理由は沢山ありますが、結論を先に言えば、この著書は名著であるということです。私は数学は不得意でしたが、宮崎学園に赴任する前に、海洋音響の研究に長年携わり、数値解析の手法を適用して海中での音波の振る舞いを解析するという仕事をしていました。そういった私自身の経験がしからしめるのだとも言えますが、この著書は繰り返し読んでも、読むたびに数学(算数)指導に向かう北村先生の教育的姿勢を身近に感じて感銘します。

 何故そう思うかという理由を簡潔に述べます。

 第一は幼児や小学校低学年の子供たちに算数を教えるということに関して、著者は70年近く古い昔のことを正確に、しかも緻密に記憶しておられることです。数の概念や数にまつわる計算のことを、事細かに記憶されているということは、子供たちに対する深い教育的愛情がなければありえないことです。私自身長い間数学を使う仕事をしましたが、幼児の頃にどのようにして数の概念や、算数的な計算法を身に付けたのか確かな記憶がありません。学校の先生や親兄弟に教えられたとは思いますが、それは単なる想像に過ぎません。本当の教育者とはこのようなものかと改めて知らされました。

 第二はこの著書を通読していくと数学がいかに私たちに必要なのかということが具体的に痛感させられることです。小学校の算数のことは論外ですが、中学校や高等学校の数学が私たちの知的な生活の基本にかかわっているということがよく理解できます。中学校で習う負の数の概念や数式を文字で表すことなどを挙げれば、どなたにも異論はないでしょう。高等学校の数学でも微分・積分・関数のこと・統計、解析という概念が私たちの生活に深くかかわっていることを思い知らされます。

 第三にこの著書が重要な点は、この著書は単に数学の教師だけではなく、どのような教科を担当する教師にも大いに参考になるだろうということです。特に本学の教育学部の卒業生の大半は初等教育に関連する教師になるわけですから、否応なく算数を教えなければなりません。そのとき、この著書に書かれていることは参考になるはずです。教え方が手に取るように解ります。成程と思うのです。

 第四は、この著書に書かれていることは算数や数学教育のことのようですが、他教科についてもこの様なアプローチが重要と思われることです。落ちこぼしを作らない教師の姿は感動的です。

 ご一読をお勧めします。これ以上のコメントは無用だと思っています。