創始者ブログ FOUNDER'S BLOG

2019.08.27

高等教育での語学教育(4)

 引き続きIDE現代の高等教育 No.611 2019年6月号の特集「語学教育再考」に寄稿された方々の寄稿文の要約を私の所感を交えながら紹介します。

リサーチ・ユニバーシティにおける語学教育改革
 ―筑波大学における英語教育改革の3つの柱―
(盤崎弘貞 グローバルコミュニケーション教育センター長 人文社会系 教授/英語教育学)

  • 大学語学教育を左右する情勢として、第1は大学運営交付金の減少によって語学教育に従事する教職員人材を精選しなければならないこと、マルチ人材(教授法にもICTにも強い教職員)を選ばねばならないこと、授業数削減が必要になってきた。
    第2に今後20年程度までは18歳人口が減少するので、その対策として留学生が増えることが予想され、留学生に対する日本語、日本語事情教育の充実と全学生に対する英語による授業の増加を検討する必要を生じている。
  • 東北大学や筑波大学の公表・非公表調査結果では、1年次と3年次のTOEFL ITPスコア を比較すると、後者に向上が見られない。(大学での英語教育はTOEFLスコアで見る限り効果がない)。
  • 筑波大学では、このような状況を受け、以下のような3つの改革の柱をたてて実践を開始している。

(1)一般共通科目として英語では徹底的なCLILによるEGAP教育
(2)専門教育におけるCLIL/EMIによるESAP教育
(3)グローバルコミュニケーション教育センター(以下教育センター)における全学CLIL/EMIサポート

*CLIL:Content and Language Integrated Learning内容言語統合型学習
*EGAP: English for General Academic Purposes一般学術英語
*EMI:English Medium Instruction(英語による専門教育)
*ESAP: English for Specific Academic Purposes(特定学術目的の英語)

  • (1)については、教育センターで徹底的にCLILを実践し、EGAPを高める教育をする。具体的にはPower Pointを活用し、アカデミックライティングを実践している。授業時間だけでは学習時間が足りないのでe-learning教材を提供して自律学習を行っている。
  • (2)については、専門課程においても、英語による専門教育科目を実践し、英語のプレゼンテーション力、ディスカッション力、交渉力を高める。
  • (3)については、EMIによって、言語関連専攻(他の外国語専攻)、理系、芸術、体育、日本史専攻であっても英語で授業をしている。この場合、日本人教師が英語で講義をすると、専門知識が十分伝わらないという問題が起こる。あるいは専門教科の教員は語学教育のノウハウをもっていないという問題がある。
  • (3)に述べた問題は以下のような点を教員が共有することで、EMI授業の展開を進めることになっている。第1に、通常1~2年で終了する共通科目でのCLIL教育には限界があることから、専門科目においても英語で行うESAP授業が今後必須であるという認識が深まっている。第2に、進学および就職の際に必要な英語力が、在学生にはまだ不十分であるという認識が共有されてきた。第3に日本人と留学生向けでは、対象を別々にして授業が行われていたが、学内のグローバル化、日本人と留学生の交流の点からも、両者を統合したハイブリッド型の授業が今後増加することが見込まれている。
  • しかしながら、こうした共通認識ができたとはいえ、語学教育者ではない専門課程教員が英語で授業を実践するEMI方式には不安がある。その対策をするのは語学センターの 業務である。英語による授業担当予定の教員を対象にするEMIサポートセミナーを1日行い、CLIL/EMIにおけるグループ活動(協働学習)や動機づけ、語彙提示(コロケーションと呼ばれる語と語の自然な結びつきの指導他)、内容や語彙のパラフレーズ(易しい語彙での言い換え)、効果的なスライドの提示などについてのアドバイスをした上で、実際にグループワークや模擬授業を行う。教育センターは教材の提供も行う。これには学習者が自習できる教材に加え、授業で実際に使えるビデオなどがある。
  • 結語として、英語を柱とした語学教育には、大学教員からの信条的な異論もあるが、在学生が抱える語学に関わる問題点を共有することで、大きな方向性については一丸となって進めることができると考えている。

 

Tutorial English の過去、現在、未来
(近藤悠介 早稲田大学グローバルエデュケーションセンター 准教授/応用言語学 言語テスト)

  • 英語に対する学生個人の興味または運用能力は千差万別であるが、社会または学内からは、より高度な英語運用能力が求められている。しかし、多くの学生はCEFR B2に達することなく卒業している。これは「自分の専門分野での技術的な議論を含め、その話題が具体的でも抽象的でも、複雑な文章の主旨を理解できる」英語力に達していないことを意味する。

*CEFR B2:Common European Framework of Reference for Language Learning, Teaching Assessmentの略で、B2は実用英語検定準1級レベルのようです。

  • 大学は学生の語学力向上とともに、より広い意味でのグローバル人材の育成が求められているが、グローバル人材のコンピテンシーの重要な要素として語学力を指標としている。
  • Tutorial English とは、受講者4人に対し、チューターと呼ばれる講師1人の少人数制科目で週に2回、現在はクォーター制なのでひとつのレベルで前半10回、後半10回の授業で、7つのレベルがある。
  • この授業方法は2001年に始めたが、2002年には早稲田大学の学生であれば誰でも履修できるオープン科目として正規科目となり、受講者は4,000人を超えた。2018年度7,000人の学生が受講している。英語力評価基準はヨーロッパ言語共通参照枠CEFR Language Portfolioにおける能力記述分(Can-do statements)である。(最後の部分は意味不明)。
  • Tutorial English 開発のプロセスにおいて、受講者の発言機会や議論をする上での適切な人数を求めるための実験授業を行った。その結果を踏まえて現在の少人数制の授業が提案された。
  • 英語母語話者ではなく英語使用者とのコミュニケーションを重視したことは、学生の将来につながる正しい判断であった。
  • Tutorial Englishの教育効果については以下に述べるように、現時点では適切な評価をしようとすれば起こってくる問題を解決する明確な手がかりがあるとは言い難いが、常に変化することでパフォーマンス評価に関する課題は解決されるはずである。問題を列記すると下記のようなことがある。

(1)教育効果を検証するための道具であるテストや評価項目そのものに関する問題がある。
(2)Tutorial Englishはスピーキングに特化した科目なので、成果として評価・測定す べきはスピーキング能力である。多岐選択式などの客観式テストでは評価、測定できないため、パフォーマンス評価を行うべきだというのが現在の主流の考えである。
(3)Tutorial English が目的としているのは「議論のできる英語力」である。この「力を評価するには、テストにおいて、環境、教育、政治などの課題を与えて、これらについて意見を言わせるという方法が一般的であろう。しかし、受験者には得手不得手があるので、「議論のできる英語力」を評価、測定することは簡単なことではない。