創始者ブログ FOUNDER'S BLOG

2019.09.04

高等教育での語学教育(5)

 引き続きIDE現代の高等教育 No.611 2019年6月号の特集「語学教育再考」に寄稿された方々の寄稿文の要約を私の所感を交えながら紹介します。

広島大学における英語教育(西谷 元  広島大学副理事(SGU担当)・法学部教授/国際機構法、国際経済法)

*SGU  Super Global Universityの略。日本学術振興会のスーパーグローバル大学創生事業に応募した広島大学のプログラム担当という意味だと思います。

  • (まえがき的な説明)

(1)英語に対する学生個人の興味または運用能力は千差万別であるが、学内外からは高度な英語運用能力が求められている。

(2)多くの学生はCEFR B2に達することなく卒業していく。(CEFR B2とは実用英語検定準1級レベル)。これは「自分の専門分野での技術的な議論を含め、その話題が具体的でも抽象的でも、複雑な文章の主旨を理解できる」英語力に達していないことを意味する。

(3)学生の語学力向上とともに、広い意味でのグローバル人材の育成が求められているが、語学力がグローバル人材のコンピテンシー(力量)を表す重要な要素の一つである。

(4)この要素はグローバル人材概念の客観的・測定可能かつ相互に比較可能な、ほぼ唯一の指標として捉えられることさえある。

  • 英語力の測定・把握のための取り組み

(1)客観的なデータに基づいた施策を計画・実施(EBPM)している。
*EBPM  Evidence Based Policy Making 証拠に基づく対策立案

(2)TOEIC ITPを2008年以降は全額大学負担で実施している
*TOEIC ITP  TOEICの正式な公開テストではなく、学校や企業単位で試験を実施するプログラム。ITPはInstitutional Testing Programの略でIPとも呼ぶ。

(3)TOEIC ITPを入学直後に行い、成績別に英語授業のクラス分けを行った。

(4)2008年~2011年は入学直後2年間に4回のテストを実施した。

(5)2012年~2013年には卒業までに4回のテストを実施した。

(6)2014年以降は卒業までに2回の指定受験、年2回の希望受験を実施している(全学生の約半数にあたる7,500人が毎年受験している)。

  • 測定・分析の結果

(1)入学時の英語力は概して年々上昇しているが、在学期間中の語学力は伸びているとはいえない。

(2)入学時の英語力は学部学科によって大きく異なる。

(3)学部・学科により英語力に対する考え方が異なるとの推定は働く。

(4)どのような学生がこのようなパターンを生じさせているのかを明らかにするため、表面妥当性を排した質問からなる臨床心理学に基づくテスト、BEVIを1年生全員(約2,400人)に対して実施したところ、各学部・学科によって大きな違いがあることが明らかになった。
*BEVIはBeliefs, Events, and Values Inventoryの略で臨床心理学的分析法の一つです。教育、研究からリーダーシップ・プログラムやメンタル・ヘルスに至るまで様々な場面で利用することのできる、使いやすく柔軟性に富んだ強力な分析ツールで、学習・成長・変化のプロセスや成果を理解し、それらを促進することができるそうです。

(5)2週間の短期留学であっても、ある種の留学プログラムは大きな変化をもたらす。

(6)海外など外の世界に興味を有する学生は学部によって大きく異なる。デシル9,10の学生は文理系によって差はないが、8以下は文系の方が高い(4以下は反転)。このことは英語力の高い学生数とも相関性がある。
*デシル デシル分析はマーケットリサーチの分析法で、購買意欲を1~10に分類して数値化します。ここでは学生の海外など外の世界に対する興味を10段階に区分し、この分析法を適用しています。

  • 個人別期待値の設定

(1)学生の心理特性また動機は個人によって異なるから、学部・学科を一つの教育ユニットとして捉え、各学生の特性に着目する必要がある。

(2)学部横断的に均一の目標を設定すると、目標が高くても低くても夫々に弊害がある。

(3)これまでの語学力の測定・分析の結果に基づき、学部学生の30%が卒業までにCEFR B2に達することを目標にした。

(4)原則として、入学直後に実施するTOEIC ITPスコアを基準にして、授業以外に200時間程度継続的に学習することを前提に、学生個人ごとに半年毎の期待値を設定した。

  • 現状・将来

(1)特別英語クラス・留学プログラムなどの成果もあり、CEFR B2を達成する学生数は、着実に上昇している。しかし、SGU当初の計画目標は達成することができなかった。また、個人別期待値の達成率も十分とはいえない。

(2)学生また学部ごとに、英語力上昇への動機が大きく違うことも明確になった。

(3)CEFR B2を達成する学生数を増加させると同時に、個人別期待値の達成度を用いることで、全学生の英語運用能力を伸ばすことができればと考えている。


大学英語教育の課題と提案(早瀬光秋 三重大学教育学部 特任教授/英語教育学)
  • 大学英語教育の課題

(1)最大の課題は、学生に学習者としての英語を学ぶ確固たる動機づけや目的意識が薄い。「卒業に必要な単位」「将来役立つから」が動機である。

(2)母語も含めた言語習得の基本についての知識と好奇心が希薄である。

(3)教える側が教材を選んでいることに問題がある。

  • 提案1 インプットの重要性

(1)ピアノの練習、自転車に乗ることをはじめ、何事も1回目よりも2回目の方が物事はうまくいく。しかし、外国語学習はそうではない稀有な領域であることを認識させるだけでも動機が強くなる。

(2)英語を話せるようになりたいという学生は多いが、英語を聞けるようになりたいという学生は少ない。大量のインプット理解が外国語習得には不可欠である。(外国語は聞いて理解できれば話せると主張する人もいます)。

(3)文部科学省によると、中学校の英語教員の50%は英語で授業をし、高校では40%が英語で授業を行っている。大学では不明であるが、中高に後れを取っていると思う。

(4)例えば、米国CNN10や英国のBBC World Newsを毎日視聴して欲しい。

(5)英語は日本語と同じように生活の手段として使うものという意識に改革してもらいたい。

  • 提案2 間違いを恐れない

(1)母語を含め言葉の習得は間違い無しには成立しないのが常識である。

(2)日本の英語教育ではspontaneous speaking training(即興で話す訓練)が少ない。

(3)海外の大学との遠隔授業はインターネットを使えばパソコンで無料でできる。

  • 提案3 考えさせる英語教育

(1)アクティブ・ラーニングを採用する。

(2)疑問点についてはペアワークで話し合いをさせ、考えさせる。

(3)学生の分析・統合力、批判力に加え「質問力」を高めることが急務である。