創始者ブログ FOUNDER'S BLOG

2017.01.10

リベラル・アーツか専門か? (1)

 明けましておめでとうございます。宮崎の天候はいかがだったでしょうか? 私の住んでいる横浜は年末から年始にかけて好天に恵まれ、まことに穏やかな毎日でした。一年の計は元旦にありと申しますが、閑居の身にとっては今更一年の計と改まるほどのことはあまりないのですが、今後の日本や世界がどのように変化していくかについては、色々な衝撃的な出来事がありましたので身構える気持ちになります。昨年の「再び偉大な英国を」と叫んでEU離脱を国民投票で決めた英国、「再び偉大な米国を」と唱えて当選した米国大統領の選挙活動の展開は私にとっては思いがけない結果でした。グローバル化が大切なのだと考えてきた私達の気勢をそぐような結果ですし、反グローバルを唱えれば票が稼げるという思い出したくもない大衆迎合主義(populism)の台頭かと心配になります。ドイツ国民の圧倒的支持で台頭したヒットラーがもたらした結果や日本の軍国主義国家への転換という陰惨な時代を思い出すからです。


 


 不幸な歴史を繰り返さないために私たちができることは、回り道の様であってもやはり健全な人材を育成する教育を充実させることだと思っています。世界全体が平和で共存共栄できるような仕組みを考え、それを推進できる人材を育てなければならないのです。


 


  ところで、年末に日本経済新聞購読の契約更新をしましたら、非売品だそうですが、“「池上彰の教養のススメ」日経BP社刊”を契約更新の特典で貰いました。この書物は東京工業大学のリベラルアーツセンターの3人の先生(池上彰先生を含む)と、同大名誉教授1人の教養教育に対する見解を池上先生がまとめた記録です。内容はリベラル・アーツ教育の意味するところが具体的に説明されていて大変勉強になります。


 


 東京工業大学は理工系の大学ですが、その中で本学と類似したリベラル・アーツ教育を行っています。本学と違うのはこのセンターは教員数が3人しかいない(少し増員される予定とのことです)こと、日本語で授業を行っていること、講義形式での授業を行っていることなどです。教育の趣旨は本学と同じと考えてよいと思われます。


 


 池上先生というより池上さんのニュースや時事問題の解説は大変分かり易いという定評がありますが、リベラル・アーツ教育の意味や価値についても説得力のある説明をされています。以下に池上教授のリベラル・アーツ教育の見解と2人のセンターの教授と1人の名誉教授との対談の要点をごく簡単に述べます。以下、このセンターの教授を先生と呼ぶことにします。


 


 この書物全体を紹介したいのですが、長くなりますので数回に分けて私の見解を交えながら紹介したいと思います。


 


 先ず、池上先生のリベラル・アーツ教育に対する見解について要約してみます。池上先生はNHKの記者をされたジャーナリストですが、2012年から前述のセンターの教授をされています。池上先生はリベラル・アーツ=教養と明記されているので、以下「教養」と呼ぶことにします。


 


  池上先生は教養について“誰もが大学に行く(誰もがと言っても進学率は約50%です)時代になり、「すぐに使える」実学的な教科が重視されるようになった。カリキュラムでは教養科目を削り、専門科目を増やした。そして、教養は「すぐに役に立たない、どうでもいい学問」という扱いになった。その結果、教養なき実学、教養なき合理主義、教養なきビジネスが広がって、新しいものを生み出せないことに日本人は気づき始めている。”と述べています。そして「すぐに役立つものは、すぐに役に立たなくなる」のだという見解です。


 


 池上先生は教養の意義、価値、そして意味について以下のように述べています。


 


 まず、物事の答えを探る手がかりを与えてくれるのは教養のあるなしに関わってくる場合が多い、つまり、物事の前提から疑ってかかれる能力。疑うだけでは評論ですから、新たに条件を創る、つまりルールを創る能力が必要。しかし、新たに創った条件やルールは自然環境の変化などによって簡単に壊れるし、変化します。だから、あらゆる変化に対応するための能力が必要。もっと言えば生物学(本学の場合は“生命科学”)を学ぶ。教養はすぐに立たないから一生役に立つ。そして、四の五の言わずに本を沢山読む。「人間を学ぶ」ためには「歴史」を学べ。 教養とは、つまるところ「人を知る」ということである。 目先の合理主義は非合理な結果を招く。 教養がない街には、人が来ない。 本当の教養はムダなものである


 


 以上の記述は、この書物のオリエンテーションにあたる部分の標題です。下線を施した標題は若干、唐突な感じを受けると思いますが、次回から他の先生との対話を要約しますので、それによって上述の下線部が理解でき、納得して貰えると思います。


 


 今回まとめたのは、この書物の序文にあたるような部分です。