創始者ブログ FOUNDER'S BLOG

2017.02.03

リベラル・アーツか専門か?(6)

 この標題でのブログ・シリーズは長くなりましたが、今回で終わりです。今回はジャーナリストの池上先生、文化人類学者の上田先生のお二人が訪問されたアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)、ハーバード大学、ウェルズリー女子大学を訪問された話です。アメリカと日本の高等教育の状況について、私の見解を合わせて述べることにします。


 


 本学が22年前に創設された頃から、高等教育(大学教育という意味)の世界では実学ということが盛んに言われてきました。現在でもそうです。実学とは福沢諭吉翁が唱えたのですが、その流れをくむ小泉信三先生は「すぐに役に立つものは、すぐ使えなくなる」という考えですから、最近言われている実学ではないでしょう。最近言われているのは「実用学」です。もう一つ、最近になって文部科学大臣の国立大学法人に対する通達で、大学は人文学専攻部門を廃止して、社会のニーズに応えられるような役立つ教育をすべきであると述べて物議をかもしました。実用学も人文系の学問軽視も同根で、理系重視、専門教育重視の考えだと思います。


 


 さて、本題に戻り、上田、池上両先生は前述の3大学を訪問し、世界のトップレベルと言われるこれらの大学がいかに教養(リベラル・アーツ)教育を大切にしているかを見てこられた話です。


 


 まず、MITです。ご存知のように、この大学は理系の大学です。卒業要件としては32科目128単位取得しなければなりません(本学は124単位)が、そのうちの4分の1の8科目、32単位相当は文系科目でなければなりません。そして各科目の中でライティングとプレゼンが徹底して課せられているそうです。さらに、理系の専門科目においてもライティングやプレゼンが課せられているそうです。コミュニケーション指導を専門にしている教員がいることは私達も学ばねばならないところです。理系の大学でありながら教養と伝える力を養う大学です。また、著名な言語学の権威チョムスキー博士が80歳を超えても現役で学生の指導にあたられていることでも有名です。驚くことには、音楽教育も行っていて、MIT交響楽団は全米の大学の中でトップクラスの演奏技術を誇っているとのことです。


 


 次はアメリカ最高の名門女子大学、ウェズリー大学です。先般の大統領選挙で周知のヒラリー・クリントン前国務長官、女性として初めて国務長官になり、宮崎市役所前のオルブライト・ホールの名前の由来になったマデレーン・オルブライトさんもこの大学の卒業生だそうです。この大学はMITが基本的には理工系専門大学、ハーバードは世界一の総合大学で、どちらも修士課程、博士課程があるのに対し、ウェルズリーは教養課程のみ、リベラル・アーツのみで、専門課程を学びたければ、卒業後、ほかの大学院に行くということになっています。ウェルズリーはボストン郊外の豊かな自然環境の中にあり、4年間しっかりリベラル・アーツを学ぶようになっていますが、91%の学生が卒業までに2週間から半年の期間インターンシップで学外に出ているそうです。授業料が年5万ドル、日本円にすると500万円ですが、全寮制で寮費、食事代も含まれるとのことです。庶民では手が届かない額ですが、奨学金制度がしっかりしていて、学生は卒業してから返済する仕組みができているとのことです。大学側に聞くと学生一人当たり年10万ドルの費用がかかっているとのこと、不足分は学長他が寄付を集めるとのことです。アメリカの寄付文化は羨ましいと思います。アメリカの裕福な人たちや企業が女性にリベラル・アーツ教育をする価値を認めているということでしょう。


 


 最後は世界のトップを行くハーバード大学の学部教育です。ハーバードで最も印象に残っているのは、リベラル・アーツ教育に相当に力を入れていて、「ディレクター」がいることだったということです。ディレクターはMIT、ウェルズリーにも存在していたそうですが、ハーバードはその存在が徹底していたようです。ディレクターの仕事は、ひとつひとつの科目を担当する先生たちと議論しながら大学のミッションをきちんと授業に盛り込んでいく、つまり、ハーバード大学のリベラル・アーツ教育の理念を、あらゆる科目に練りこむための事前事後の準備をすることだそうです。また、教員は学生から評価を受けるが、教員の改善点や改善の仕方についてディレクターは教員にアドバイスする役目も持っているとのことです。そのようなことが出来ること、また、ディレクターになることが出来る人材を確保できるという点でもハーバードは優れた大学だと思います。


 


 以上、お二人の先生たちが見てきたアメリカの超一流大学のリベラル・アーツ教育の実態の一部です。本学国際教養学部は、基本的には日本語を母語とする学生が英語でリベラル・アーツを学ぶという教育法を取っています。財政的な困難を抱えていますが、方向性としては世界のトップレベルの大学に引けを取らない教育を行っていると改めて思いました。


 


 このシリーズは主に東京工大のリベラルアーツセンターの紹介でしたが、本学国際教養学部が行っているリベラル・アーツ教育がいかに優れていて、価値のあるものであるかを説明するものになっているとも言えます。世界のトップレベルの大学も本学と同じような教育を行っていることを確認でき、自信を持って進むべきだという思いを新たにしました。