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2017.09.07

創始者ブログ「文章読本(その2)谷崎潤一郎(3)」

 谷崎潤一郎「文章読本 完」は文庫本で全体は230ページありますが、最後の章「文章の要素」は、その130ページを使って説明しています。

 さて、谷崎は「文章の要素」は6つに分類できるとしています。用語、調子、文体、体裁、品格、含蓄です。この順序にしたがって要約します。

 

1 用語
  • 異をたてようとするな
    分かり易い語を選ぶこと。昔から使いなれた古語を選ぶ。適当な古語がみつからない時に新語を使う(谷崎の言う古語とは明治以前に使われていた語)。造語の使用は慎むべきである。同義語は読書によって知識を増やすことが必要であるが、類語辞典や英和辞典の援けも借りると良い。最適な言葉は一つしかないということがあるが、言葉があって、その言葉に当てはまるように考えをまとめることができる。人間が言葉を使うが、言葉も人間を使う。
  • 分かり易い言葉を選べ
    例えば「意識する」と書かないでも「知っている」「感じている」「気が付いている」で良い。「概念」「観念」なども「考え」と言っただけで分かる。
  • 拠り所のある言葉でも、耳遠い、難しい成語よりも耳慣れた外来語や俗語の方が良い

 

2 調子
  • 文章を作る上で、最も人に教え難いもの、その人の天性に依るところの多いものは調子であろう。
  • 文章は人格の表れであるばかりではなく、その人の精神の流動であり、血管のリズムである。
  • 源氏物語のような流麗なものがあるが、英語のように関係代名詞がなくても長文(長いセンテンスの意)を書くことができる。その為には、つなぎ目をぼかすために無用な「のである」「のであった」を付け加えない。無用な主格を省く。「た」止めを避ける。「て」「が」の頻出を避ける。流麗な書き方は日本語文の特長を発揮した文体である。
  • これと正反対の特色をもつのは志賀直哉の文体にみられる簡潔な調子である。一語一語の印象が鮮明で、センテンスの切れ目も力強い。無駄のない文章である。
  • この他に冷静な調子の文体や自由奔放な文体、ごつごつした文体がある。

 

3 文体 

 文体とは文章の形態もしくは姿のことであるが、既に「調子」のところで、このことを説明し尽くしている。文章の書き方を言葉の流れとみて、その流露感から言えば調子であり、流れを一つの状態とみれば、それが文体であると言える。

 しかし、強いて分類すれば講義体、兵語体、口上体、会話体である。

  1. 講義体
    実際の口語に最も遠く、文章体に最も近い文体。学校に通う、通った、通うであろうという形。又は、通うのである、通ったのであった、通うのだったなどである。
  2. 兵語体
    学校へ通います、通いました、通うのであります、通ったのでありました。彼は賢くあります、賢いのでありました等。昔の軍人の言葉使い。
  3. 口上体
    「あります」「ありました」の代わりに「ございます」「ございました」を使うもので、兵語体より更に丁寧な言い方。
  4. 会話体
    本当の口語文。書いた人の声音とか眼つきを想像させる役をする。男女の区別が分かる書き方で、日本の口語のみが有する長所である。色々な文体を混ぜて使うことができ、中途でポツンと切ったり、中途から始まってもよい。名詞止め、副詞止めも出来、最後に来る品詞が雑多である。言い回しが自由、センテンスの終わりの音に変化があり、語勢を感じ、微妙な心持や表情を想像できる。

 

4 体裁

 文章の視覚的要素一切のことで、分類して説明する。

  1. 振り仮名、送り仮名の問題
    例えば、家と書いてイエと読むかウチと読むかなどの問題がある。振り仮名のことを印刷工はルビと呼ぶが、パラルビというのがある。必要なところにだけ振り仮名をする方法である。
    厄介なのは送り仮名である。「細い」とかいて「ほそい」と読むか「こまかい」とよむかが問題である。後者ならば、「細かい」と書けば問題はない。この他に漢字を音読みにするか訓読みにするかも面倒である。
  2. 漢字と仮名の宛て方
    例えば、生物を「いきもの」と読むか「せいぶつ」と読むかである。前者は「生き物」とした方がよさそうである。音にも訓にも関係なく言葉の意味を汲んで漢字を宛てたものがある。例えば寝衣(ねまき)、浴衣(ゆかた)などである。
  3. 活字の形態
    現在(谷崎の時代)の書籍の活字は一般に小さい。老人には不向きである。(今でいうフォント、サイズのことの議論です。)(新しい文庫本は活字が大きく、老人にはとても読みやすくなっています。また、パラルビで読みにくい漢字には振り仮名がありますのでとても助かります。)
    活字の形態は、現在では明朝とゴシックの2種類であるが、西洋にはゴシックの他にイタリックがあり、ドイツ文字もあって4種類ある。(コンピュータのフォントはもっとあります。) 日本には美術的な楷、行、草、隷、篆、変体仮名、片仮名があり、これらは利用すべきである。
  4. 句読点
    口語文にはセンテンスの終止を示す「 。」と、区切りを示す「 、」単語を区分けする「 ・」、引用符の「 」( )【】の他 ― ・・・・ ? ! “ ”などがある。句読点は宛て字や仮名遣いと同様に到底合理的には使い切れない。
  5. 品格
    文章の品格と言うのは礼儀作法のことである。文章は公衆に向かって話しかけるものであるから一定の品位を保ち、礼儀を守るべきものである。その為には饒舌を慎む、言葉使いを粗略にしない、敬語や尊称をおろそかにしないことが必要である。品格ある文章を作るには、なによりそれにふさわしい精神を涵養することが第一。優雅の精神を体得することに帰着する。
    優雅の精神とは、我々の内気な性質、東洋人の謙譲の徳と深いかかわりがあるものを指す。日本語には一つの見逃すことのできない特色がある。己を卑下し、人を敬う言い方は他の言語に比べて驚くほど種類が豊富である。他に比べてはるかに複雑な発達を遂げている。
  6. 含蓄
    含蓄とは「饒舌を慎むこと」、言い換えれば「あまりはっきりさせようとしないこと」及び「意味のつながりに間隙を置くこと」である。実はこの本は始めから終わりまで、ほとんど含蓄の一事を説いているとも言える。ほんとうに芸の上手な俳優は、喜怒哀楽を現わすのに大げさな所作や表情をしない。書き過ぎとは無駄な形容詞や副詞が多いことである。言葉は惜しんで使うことが必要である。

 

以上です。