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相談役 大坪久泰

相談役
大坪 久泰

相談役メッセージ

大学教育の質的改革

2017.04.25

 日本経済新聞平成29年4月13日付(13版)19面の「大機小機」欄に「大学教育に質的改革を」という新聞社関係者の意見が出ていました。

 

 論点を要約します。「人口減少に突入した日本が経済成長力と国際競争力を維持するためには、教育の高度化と労働力あたりの生産性の向上が重要である。政府が検討している大学を含めた高等教育の無料化は一つの手段ではあるが、大学の実態を直視しないと却って経済活動を阻害する。特に文系の評価は低い。4年間遊んでいても、アルバイトと就職活動に明け暮れていても、卒業させてくれる。理系も学生はある程度勉強はするが設備や教員層がみすぼらしい。そこで、現在の文系の大学を絞り込み、実務に直結する大学、いわゆる専門職大学を増やすべきである。同時に卒業要件の厳格化が必要である。この様にするためには予算措置が必要であるが、それは先行投資として政府が講じるしかない。将来教育効果が高まれば、税収が増える。企業や卒業生が大学の優れた役割を実感し、寄付金を大幅に増やすので、教育と経済の好循環が形成される。」ということです。

 

 先ず、「大機小機」の著者が主張している専門職教育とは「実務に直結する専門職大学」ですから、学理を深く学ぶのではなく、実務教育を重視するということのようです。専門職とは本来は英語のprofessionalで、大学教授、科学者、医師、高度技術者、法律家などの高度な知的職業人を形容する言葉です。日本で言うプロとは、スポーツ選手以外では主として高度の技能技術者に対して使われています。4年制の大学で専門職業人を養成するのは例外を除けば不可能ですから、専門を持った実務者養成を目指すということなのでしょう。

 

 もう一つの問題は、現在の特に文系の大学生について、アルバイトと就職活動に明け暮れ、4年間遊んでいても卒業できると批判されていることです。数年前に筑波大学の金子元久教授グループは、日本の平均的な大学生の授業以外での週当たりの勉学時間は約1時間という調査報告をされました。アメリカの学生の約10時間に比べて圧倒的に少ないことが話題になっていました。確かに学生があまり勉強をしないというのは残念ながら事実のようです。「大機小機」の著者は対策として、卒業要件を厳しくすることによって、この問題が解決できると考えているようです。

しかし、カリキュラムを実用学中心にし、卒業要件を厳しくすれば大学の質的教育改革ができると考えるのは安易な考えではないでしょうか。

 

 日本経済新聞4月17日付17面に池上彰氏も述べておられますが、大学では中学校・高等学校で行われている学習指導要領に沿って、基本的な知識を正確に理解して覚える勉学ではなく、専攻分野で自ら問いを立て、その答えを探していかねばなりません。徹底した批判精神を持って自ら考え抜く力を養うことが必要です。どんな専攻であろうと、この訓練は不可欠です。不可欠ですが、まだまだ講義を聴くだけという大学は多いと聞き及んでいます。

 

 もう一つ、卒業要件のことです。厳格にすることだけでは到底解決するとは思えません。厳格にすることは必要ですが、落ちこぼれて卒業要件を満たすことのできない学生は残念ながらいます。落ちこぼれる学生には夫々に事情があります。怠けていることばかりがその理由とは言えません。経済的、家庭的、情緒的な問題、交友関係や病気など他の多くの事情もあり得ます。大学は高度の学識と高い品性を備えた大学人で構成され、学生が大いなる可能性を引き出せるような人材に育つことを願って活動しているコミュニティーです。また、そうでなければなりません。それには、先ず、卒業直前に卒業要件を満たしていないことが判明するような状況をつくらないことです。その為には1年次から学年進行中に学生を見守ることが重要です。本学は徹底した少人数でのアクティブ・ラーニングを行っていますから、基本的に学生の学修活動を個別に掌握し易い環境があります。英語については定期的に実施されるTOEICで英語力のチェックをしています。教育法として学生の批判的学修を推進するためにクリティカル・シンキング(CT)メソッドを採用しており、現在その成果を測定するツールを開発中で、間もなくその手法が確立されます。教科については授業での学修達成度を評価し易いようにしたルーブリック・ベース・シラバスを導入し、学修のPDCA管理を行っています。さらに重要なことは、各学生のe-ポートフォリオ(学生の学修来歴記録)を用いた学習成果の可視化を行っていますので、指導する教員は学生の日常的な学修活動を観察し、事務方と協力して個別の指導ができます。また、学生は学年進級時に学修達成度をチェックされ、特に国際教養学部では2年次から3年次に進級する段階ではTOEICスコア500点が求められています。

 

 学修面は前述の通りですが、学生は資格を持つカウンセラーにいつでも相談ができます。学生個人に順調な学習活動ができない事情があると察せられた場合は、大学として組織的に対応し、適切な学修指導を行います。また、学生には入学時に教員のアドバイザーが割り当てられます。さらに、上級生の中から指導力のある学生を選んでアドバイザー・アシスタントを任命し、先輩として新入生の面倒をみてもらい、新入生とアドバイザーとの間の距離感を補ってもらっています。人は誰しもそうですが、常に勇気づけが必要です。学長は常に自ら先頭に立ち、幹部教職員と共に、常に各教職員はもちろん、学生個人との交流にも力を注ぎ、激励を行っています。これらの活動で全てが解決できるわけではありませんが、本学のコミュニティーは家族的ですから、皆で助け合い、より良い教育環境を作ることができます。小さい大学であるからこそできることです。大学教育の質的改革は制度改編だけで成し遂げられるものではないのです。